今年5月、職場でのパワハラやセクハラを防ぐために必要な対策を講じるよう、初めて企業に義務付けた法律が、国会で成立した。

来年6月にも施行される予定だが、ハラスメントの定義や、具体的な防止策の内容について書かれた「指針」の素案をめぐって、専門家や団体から抗議の声が上がっている。

どのような点が問題視されているのか。これまでの経緯を振り返った。

パワハラの定義が「限定的」

今年5月に成立した「改正労働施策総合推進法」(通称パワハラ防止法)は、企業のパワハラ防止義務について、このように明記した。

「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」

この法案は、日本で初めてパワハラについて規定し、企業に防止措置を義務付けた法律として評価された。

その一方で、パワハラの具体的な定義や防止策の内容、さらなる配慮や対策が必要な分野など、条文には盛り込まれなかった内容も多くあった。

例えば、ハラスメントが起きる「職場」はどこまで含むのか、防止措置の対象となる「労働者」以外のフリーランスや就活生は守られるのか。

条文ではカバーしきれなかった部分を、9月に開会した労働政策審議会で策定する「指針」で補うよう、衆参両院の付帯決議で求められていた。

ところが、10月21日に厚生労働省が示した「指針」の素案は、むしろパワハラの範囲を大きく狭め、法案の付帯決議で求められていた内容が含まれていないという指摘が相次いでいる。

「抵抗できない」ことを証明するハードル

厚労省が示した素案は「被害者目線に欠けていて、事業主がどう気をつけたらいいかという『リスク管理』の視点から作られているようだ」と、弁護士としてハラスメント事件を多く担当してきた打越さく良・参議院議員は、BuzzFeed Newsの取材に語る。

まず、職場におけるパワハラの定義について、素案では次の3つの要素を全て満たさなければならないとしている。

  1. 優越的な関係を背景とした言動
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
  3. 労働者の就業環境が害されるもの


ここでの「職場」とは、「労働者が業務を遂行する場所」と定義されているため、居酒屋など勤務場所以外での行為は、ハラスメントに含まれないことになる。

「労働者」には、正規雇用労働者の他にパートや契約社員なども含まれているが、インターンや就活生、フリーランスなどは対象外。

付帯決議では、指針の中で「フリーランスや就活生のセクハラ被害を防止するために必要な対策を講ずること」と求められていたが、「必要な注意を払うよう配慮する」という表現に止まっている。

また、 「優越的な関係」とは、「労働者が(ハラスメント)行為者に対して、抵抗または拒絶することができない蓋然性が高い関係」と説明されている。

「まず、このパワハラの定義がすごく限定的で、すごくハードルが高くなってしまっています」と、打越議員は指摘する。

「例えば、加害者が直属の上司で人事権を掌握されているわけじゃなくても、同じ部署で、上の人だから言うことを聞かなければいけなかった、ハラスメントに耐えなければならなかったということは、よくあることです」

「でもこの定義だと、『直接の指揮系統にないのだから、抵抗しようと思えばできたのでは?』と言われたり、被害者側が『抵抗できなかった』ことを立証しなければいけなくなってしまいます」

被害者バッシングを「強化する」

さらに、素案ではパワハラを以下の6つの類型に分類し、それぞれパワハラに該当する例と、該当しない例を示した。

  1. 暴行・傷害(身体的な攻撃)
  2. 脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
  3. 隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
  4. 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
  5. 業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
  6. 私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)


中でも、打越議員が特に問題視したのが、パワハラに該当しない例として「遅刻や服装の乱れなど社会的ルールやマナーを欠いた言動・行動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して強く注意をすること」と書かれていた点だ。

「この例では、被害者側の落ち度がすごくクローズアップされていて、ハラスメント調査や裁判において、被害者側に問題があったんだと人格否定をされたり、二次被害に遭ったりする傾向を、助長する内容になっていると思います」

「過去にセクハラや性犯罪の事件も多く担当してきましたが、『被害者が露出度の高い服を着ていたからだ』とか『一緒に居酒屋に行ったじゃないか』などと、被害者の落ち度を指摘して、攻撃する風潮は根強くあります」

「そうした加害者目線から脱却しなければ前進できないのに、この素案では、その傾向を強化してしまうおそれがあります」

フリーランスへの被害も

10月29日に衆議院議員会館で開かれた緊急院内集会では、議員や弁護士、各団体の代表者などが、素案に対する懸念点を共有しあった。

その一人が、フリーランスとして働く人を支援する「一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会」代表理事の平田麻莉さんだ。

フリーランス協会では今年9月、指針の策定に合わせて、日本俳優連合などと共同で実施した「ハラスメント実態調査」の結果と要望書を厚労省に提出。

調査の結果では、芸能関係者やフリーランスなどの回答者約1200人のうち、約6割がパワーハラスメントを、3割以上がセクシュアルハラスメントを受けたことがあると答えていた。

素案の発表を受けて、「『フリーランスへの言動について注意を払う』という文言が入ったことは一歩前進ですが、これでは実効性あるハラスメント対策とはなりえません」と訴える緊急声明を発表した。

「フリーランスに対するハラスメントという観点でいうと、日本は今、無法地帯であると言えます」

「この素案では、実際にフリーランスに対してハラスメント行為があった際にどう対応すれば良いのか、事業主にとってもわかりづらい内容になっており、相談窓口すら設置してもらえない可能性もあります」と平田さんは指摘する。

付帯決議のおかげで「自殺を思いとどまった人も」

また、LGBT法連合会の藤井ひろみ共同代表も、性的指向や性自認に基づくハラスメント「SOGIハラ」や、性自認を勝手に暴露する「アウティング」に関する記述が不十分だと訴えた。

「付帯決議に『SOGIハラ』や『アウティング』がハラスメントであると明記し、必要な対策を講じる必要があると書いてくださったおかげで、どれだけの当事者が自殺を思いとどまっているか。法整備に匹敵する第一歩が踏み出せたととても喜んでいた」

「その思いをぜひ汲んでいただいて、付帯決議の精神が実現する指針になるよう、全国の仲間たちが待っているので、ぜひよろしくお願いします」

これらの団体の他にも、日本労働弁護団が指針の抜本的見直しを求める声明を発表。SOGIハラ防止の活動を続けている「なくそう!SOGIハラ実行委員会」も、声明を出す予定だ。

指針は今後、素案について出された意見を元に、労政審の労働者側と使用者側の委員で議論を重ね、年内には内容を固める方針だ。

パワハラの防止義務は、大企業に2020年6月から、中小企業に2022年4月から課せられる予定。労政審で議論された資料は、厚労省のサイトで閲覧することができる。